パリの石畳に馬車の音が響いていた20世紀初頭。
宝飾商として名声を確立していたCartierは、単なる装身具にとどまらない、“時間そのものを纏う芸術”の創造へと歩みを進めていました。
その象徴のひとつが、「Cloche(クロシュ)」
フランス語で“鐘”を意味する名を持つ、極めて独創的な腕時計です。
本日は、この特別なモデルをご紹介いたします。

クロシュが誕生したのは1920年代。
幾何学と構築美が美の基準となった、アール・デコの時代です。
そのフォルムは、まさに小さなベル。
横から眺めれば優雅な曲線を描き、正面からは左右非対称の大胆な輪郭が際立ちます。
リューズは“鐘の頂点”に配され、文字盤は傾けて読む設計。
当時の紳士淑女が社交の場で自然な所作のまま時刻を確認できるよう考え抜かれた、機能美の結晶でした。
懐中時計から腕時計へと移り変わる過渡期において、クロシュは“腕時計という新しい文化”そのものを体現する存在だったのです。
しかし、そのあまりに個性的な造形ゆえ生産数はごく僅か。
クロシュは静かに歴史の陰へと姿を消します。

それでもなお、真に価値を知る愛好家たちの記憶から消えることはありませんでした。
時を経てカルティエはこの伝説的モデルを再解釈。1990年代以降の復刻を経て、2021年にはコレクション・プリヴェの一環として世界限定100本が発表されました。
プラチナやイエローゴールドのケースに宿る1920年代の精神。
そこに現代の高度な技術が融合し、単なる復刻ではない“現代に響く芸術品”として蘇ったのです。
クロシュの魅力は奇抜さではなく、
左右非対称でありながら、完璧な均衡を保つ設計思想。ジュエラーとしての長い歴史を背景に持つカルティエならではの、彫刻的なケースライン。
腕に載せた瞬間、まるで小さなオブジェを纏うかのような感覚に包まれます。
この造形哲学は、カルティエが単なる時計ブランドではなく、“美を創造するメゾン”であることを雄弁に物語っています。

カルティエの歴史、技術、そしてフォルムを知る者にとって、クロシュは一目でわかる特別な存在。
100年近い時を超え、なお愛され続ける鐘のフォルムは、流行に左右されない造形美への敬意であり、メゾンが歩んできた歴史そのものです。
クロシュを腕にするということ、それは単に時を知ることではなく、1920年代パリの空気とアール・デコの精神を、現代に携えるということにほかなりません。
世界100本限定という極めて希少な一本が、現在店頭にて展示されております。
ぜひ実際にその造形を間近でご覧いただき、腕に載せた瞬間にのみ感じられる“鐘の静かな余韻”をご体感ください。
写真や言葉では決して伝わらない、本物だけが放つ存在感がそこにあります。
皆様のご来店を、心よりお待ち申し上げております。